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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2294号 判決

控訴人 清水英彦

右訴訟代理人弁護士 清水正英

被控訴人 大日本スクリーン製造株式会社

右代表者代表取締役 石田徳次郎

右訴訟代理人弁護士 太田実

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  (主位的並びに予備的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、金一七〇〇万円及びこれに対する昭和五三年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

との判決及び仮執行の宣言

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一(但し、原判決一〇枚目表三行目の「第二七号証」の次に「(但し、同号証は写)」を加える。)であるからこれを引用する。

一  控訴人の補足主張

控訴人は、被控訴人に対し、主位的に債務不履行に基づき、予備的に不法行為に基づき、損害賠償を請求しているものである。

1  まず、債務不履行を根拠とする理由は次のとおりである。

被控訴人と訴外会社との間に遅くとも昭和五〇年一一月一四日ころ結ばれた特約代理販売契約(以下「本件販売契約」という。)は、契約期間中被控訴人が訴外会社の注文に応じて被控訴人の製品等を訴外会社に売渡す義務を負うと共に、訴外会社が被控訴人の製品等をもっぱら取扱い、買受ける義務を定めた一個の継続的供給契約であり、その契約書の第一四条または第一六条の要件をみたさなければ、解除または破棄できないものとされているところ、被控訴人は、昭和五一年一〇月一日何らの理由もないのに突如訴外会社との取引を一切行なわない旨通告してきたものである。右通告によってそれ以後被控訴人が訴外会社の注文に応じて被控訴人の製品等を供給しないことは明らかである。その結果、右通告以後、訴外会社は、アフターサービスや市場の開拓に務めることができなくなり、具体的に特定の製品を被控訴人に発注することもできない状況となった。したがって、右通告によって個別的売買契約における履行遅滞と同様の状況が生じているとみることができるから、右通告が民法第四一五条の「其債務の本旨に従いたる履行を為さざるとき」に該当するものと解すべきであって、被控訴人は右債務の履行遅滞に基づく責任を免れることはできないのである。

2  仮に被控訴人が本件販売契約によって負った継続的商品供給義務の不履行をいわゆる債務不履行として捉えることができないとしても、被控訴人が不法行為者としてその責任を負うことは明らかである。すなわち、被控訴人は、本件販売契約で売渡義務を負っているのに、何らの理由もなく一方的に被控訴人の製品を訴外会社に対して一切供給しない旨の通告をし、故意に訴外会社の営業上の利益を侵害し、これによって訴外会社に控訴人主張の損害を生ぜしめたものである。

二  右主張に対する被控訴人の反論

すべて争う。

本件販売契約は未だ成立していなかったし、また、取引開始直後から被控訴人と訴外会社間には信頼関係は全くなかったから、被控訴人がした取引打切りの通告は取引の自由の範囲内というべきである。

したがって、被控訴人が債務不履行責任ないし不法行為責任を負う謂れは全くない。

理由

一  当裁判所は、債権者代位権に基づく控訴人の本訴請求につき代位の要件が存在すると判断するものであり、また、訴外会社と被控訴人との間に本件販売契約を含む本件代理店契約が締結されたことにつき当事者間に争いがないと解するものであるが、その理由は、この点に関する原判決の説示(原判決一〇枚目裏五行目以下同一一枚目裏六行目まで、及び同八行目以下同一三枚目裏七行目まで)と同一であるからこれを引用する。

なお、本件代理店契約がその期間を昭和五一年三月三一日までとする合意があったとしても、《証拠省略》によれば、被控訴人が被控訴人の製品取扱店と締結しているいわゆる代理店契約はすべてその期間を各年の三月三一日までと定め、四月一日に更に契約期間を一年として更新されていること、被控訴人と訴外会社の取引は昭和五一年四月一日以降も従前と同一条件で継続されたこと、以上の各事実が認められ、右認定事実によれば、本件代理店契約は右同日期間を一年として更新されたものと推認するのが相当であるところ、当裁判所は、被控訴人が訴外会社に対し、昭和五一年一〇月一日本件代理店契約に基づく取引の停止を通告したことにつき当事者間に争いがないと解するものであるが、その理由は、この点に関する原判決の説示(原判決一七枚目裏七行目以下同一八枚目表一一行目まで)と同一であるからこれを引用する。

二  被控訴人が訴外会社に対してした右取引停止の通告は、本件代理店契約を将来に向って解除する旨の意思表示であると解されるところ、被控訴人は、右意思表示をするにつきやむをえない事由があったから、これによって同契約は終了した旨主張するので、以下検討する。

1  まず、(一) 訴外会社は、本件販売契約の締結にあたり、被控訴人との間で、被控訴人から購入の商品等の代金及び諸費用を毎月二〇日締切、翌月一〇日までに、締切月末日より起算した一二〇日以内を満期とする約束手形、または現金で支払う、但し、月額金三〇万円に満たない場合は現金で支払う、訴外会社が右約定に違反したとき、または訴外会社が被控訴人に振出もしくは裏書した手形が不渡になったときは、被控訴人において何ら催告を要せず、解除できる旨の合意をしたこと、(二) 被控訴人と訴外会社との取引状況は原判決別紙一覧表記載のとおりであるところ、訴外会社は、同表番号2ないし8記載の各月分の支払につき、いずれも月額金三〇万円未満であるのに現金による支払をせず、また、同表番号1及び3ないし6記載の各月分の支払いのために振出した約束手形についていずれも満期にその支払をせず、右のうち同表番号1記載の月の支払のために振出した約束手形については、昭和五一年三月二〇日ころ、金額三〇万円、満期同年五月二〇日とする約束手形及び金額二四万四六四〇円、満期同年六月二〇日とする約束手形に、同表番号3記載の月の支払のために振出した約束手形については、同年五月二〇日ころ、同一金額、満期を同年八月二〇日とする約束手形にそれぞれ書替えたが、これらについてもいずれも満期に支払わず、右のうち不渡となったのは同表番号5記載の月の支払のために振出された手形のみであるが、支払をしなかった他の七回についても不渡と同様であること、以上の事実は当事者間に争いがないところ、《証拠省略》によれば、(一) 控訴人は、訴外会社が同表番号2ないし6記載の各月分の支払につき被控訴人の承諾を得て現金の支払に替えて約束手形を振出したこと、(二) 前記のとおり同表番号1及び3記載の各月分の支払のために振出した約束手形についてはその満期に支払をすることができない状態にあったため、訴外会社において被控訴人の承諾を得て右各手形を書替えたこと、以上の事実はこれを認めることができる。しかし、被控訴人が主張するその余の現金の支払懈怠及びその余の手形の満期における支払についても、訴外会社においてその支払日前に被控訴人の猶予を得ていた旨の控訴人の主張事実に副う《証拠省略》はにわかに措信し難く、ほかにこれを認めうる証拠はないから、結局、訴外会社には被控訴人に対する売買代金の支払の大部分につき債務不履行があったといわざるをえない。

2  《証拠省略》を総合すると、

(一)  訴外会社は昭和五〇年四月に資本金二五〇万円で設立された会社であるところ、昭和五一年九月ころまでに、被控訴人に対する債務を除外しても、金一〇〇〇万円を超える債務を有するに至ったこと、(二) 訴外会社の部品等の在庫が企業の規模内容に比して著しく多く、また営業用の設備、車輛に対する投資も過剰であったこと、(三) 被控訴人は同年九月長野営業所を新たに設けるに至り、藤原輝男が営業所長として着任したが、同人は、同年一〇月までに蔦友印刷株式会社の霜田や明光プロセスの小平清躬から控訴人が注文しない商品等を押しつける旨の不評を聞かされ、また、有限会社中村写真印刷所の専務中村照雄からは控訴人がワキタに勤務中契約担当者として金二八〇万円で仕入れた中古の廃液処理装置を新品の値段金五〇〇万円で同会社に納入した話を聞き、右中村から控訴人を使えば被控訴人の信用を落とす旨の忠告を受けたこと、以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

ところで、本件販売契約を含む本件代理店契約は、前記のとおり、商品を継続的に供給し、かつ、ユーザーに販売した商品の保守修理等を継続的に依頼するという内容の契約であり、いわゆる継続的供給契約の側面に加え継続的な準委任契約の側面を有するが、このような継続的取引契約は相手方に著しい信用不安があり、契約を継続することにより損害を生ずる虞れがあるなどやむをえない事由があれば直ちに契約を告知しうると解すべきところ、右認定の事実関係からすると、訴外会社がワキタとの約束により開業後一年間金三〇万円を超える機械の販売を差控えており、その期間を経過してこれからその販売活動をしようという時期にあたっていたとの控訴人主張の事情を考慮に入れても、なお被控訴人にかかる信用の乏しい訴外会社との取引の継続を期待することは全く酷であって、被控訴人が訴外会社に対してした本件代理店契約解除の意思表示は、まことにやむをえない事由に基づくものであったというべきであるから、右意思表示により本件代理店契約は昭和五一年一〇月一日を以て終了したというほかはない。

三  そうすると、昭和五一年一〇月一日被控訴人により訴外会社に対してされた本件代理店契約解除の意思表示が無効であることを前提とする控訴人の主たる請求及び予備的請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも失当である。

それ故、右各請求を棄却した原判決は結論において相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 寒竹剛)

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